■イタリアに見る中小企業孵化事業例
イタリアのボローニャにCNA(職人業全国連合)のエミリア・ロマーニャ州支部がある。中小企業の国、イタリアの経済発展を支えている仕組みの一つがこの「職人産業」の存在にある。そして、この職人産業と呼ばれるイタリアの中小企業の成功は、質の高い生活環境を保障している地方の中小都市の「まちづくり」の成功の秘訣でもある。
生活文化に根差した技能的技術を要求される職人産業は、画一的、効率的な空間を嫌い、感性を刺激する緻密でヒューマンスケールの空間を要求しており、そのためイタリアの職人産業と都市空間とは互いに補完しあう関係にある。このため、憲法にも職人という存在が確認され、政府にも職人産業省が置かれ、職人業保護法など様々な法による育成が図られると同時に、職人金融金庫が州に分割されて運営されており、金融面でもきめ細かな支援を受けている。また、全国にはCASA、CGIA、CLAAI、CNAの四つの職人組合があり、それぞれが政府に対してロビー活動を行うと同時に州単位で販売、金融、技術開発などを共同で行なっている。
そして、このCNAの中に職人業の存立基盤の確立に向けたECIPAR(職人養成部門)がある。ここには事業主を育成して体質を強化していくコースと、これから事業家を始めようとする人の為の育成コースがある。事業化のテーマ領域は随時変わっていくのだが、私が訪れたときは考古学と映像フィルム修復の二つのコースがあった。
考古学コースでは、既に養成を終えた若い女性ばかり10人が、CNAとボローニャ市とECの共同出資で設立した会社に全員職人、全員経営者という形で事業化を図りながら研修を受けていた。その研修は大学レベルであり、ボローニャ大学考古学研究所との連携で行われていた。そして、仕事はヨーロッパ各国の博物館からの依頼により食べていく程度には成り立っているとのことだった。
もう一つの古い映像フィルムの修復コースは初年度の研修期間中で(何故かこのコースは男性ばかりだった)、来年には先に述べた考古学コースのように会社組織にしていきたいとのことだった。これから需要が高まる映像文化の振興のため、英国の映画財団を退職した老齢の講師を囲んで若者たちが真剣に技能習得に取り組んでいた。
中小企業創出を人材教育から技能取得、実際の業務受注まで一貫して支援しているのである。現場を見学する前に受けた説明の中で研修のテーマ設定が非常に難しいと語っていたが、テーマを決めて若者に研修を施し、そのグループが研修終了後にはそのまま会社になっていくのである。そしてその後のビジネスに関する情報提供も行う。
つまりテーマ設定は単に研修教育の内容を決めることではなく、起業化の方向性そのものを決めることなのである。従って、設定されたテーマに今から生まれる企業の生殺与奪権は握られているといっても過言ではない。まさに中小企業孵化器とも呼べる活動内容であり、我が国の中小企業支援の実態とは隔世の感があった。
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