3.地域コミュニティの実態化の促進


■コミュニティチャネルの重層化

 従来の地域コミュニティ育成のスタンスは社会的弱者の救済や、安心・安全といった治安の確保や、福祉の考え方に基づく生存欲求・欠乏充足欲求段階のものが中心だった。従がって、その性格はいたって義務結束的であって、「〜しなければならない」といった堅苦しいコミュニティは楽しさとはほど遠いものでしかなかった。そのため、その様な組織に参加していても決して楽しくはないし、誰も役員になりたがらない。役員の順番が回ってきそうになると、何がしかの理由をつけて皆逃げ回ることになる。マズローの欲求五段階説によれば、レベル一の「生存欲求」、及びレベル二の「安全への欲求」がこの初歩的な欠乏充足欲求に該当する。

 しかし、成熟社会を迎えるなかで、住みたい、住み続けたい地域を目指すためには、普通の人の地域生活を豊かにするための"生活仕様の多様化"が図られなければならない。地域コミュニティの創出による生活ネットワークの強化。地域文化創出による文化ネッワークの深化。地域生活をサポートしてくれる地域を単位とするビジネスネットワークの拡大。地域住民の最大公約数である普通の人の地域生活を支援できるコミュニティの重層化が生活仕様の多様化を可能にし、住み続けたい地域を具体のものにしてくれる。

 そのためには、先に述べた食物・庇護、安全・保護・秩序といった欠乏充足型のコミュニティから、欲求五段階説で言うところのレベル三の「所属と愛の欲求」、レべル四の「評価・承認欲求」、更にはレベル五の「自己実現欲求」といった、自己実現を目指しての自発的な興味参加型コミュニティへと誘導目標が高度化していかなければならない。欧州に一般的な地域単位のスポーツコミュニティ。趣味・カルチャーの地域サークル。フレキシブルな地域雇用体系の創出。地域を単位とするボランティアネットワーク。これらの新たな地域コミュニティチャネルの重層的な敷設によって、地域生活を豊かにするための、多様なコミュニティが輻輳する多重ネットワーク生活圏は具体のものとなることが出来る。

 普通の生活とその生活枠の拡大を支援するためには、地域における様々なレベルでのコミュニティチャネルの顕在化が図られなければならない。地域の豊かな生活を享受するためのコミュニティチャネルの重層性の密度こそが地域の住みよさの指標なのである。地方自治体は重層的な興味参加型のコミュニティチャネルの敷設によって、義務結束型のコミュニティしか存在していない地域社会を、生活の多様性が担保される多元社会に向けて積極的に誘導しなければならない。

 
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