■地域社会の柔軟性を担保できる次世代対応型ハウジングチェーンの形成

柔らかな地域社会は地域の中での人・モノ・情報の流動性が十分に担保されている環境の元で実態化する。その中でも特に人の流通はモノと情報の流通の基本をなすものであり、生活とビジネス両面における人の流動性の高さが、柔軟で活気に溢れた地域社会実態化に向けての重要な鍵になる。しかし、現在の不動産流通の実態は、地域の活性化にとって重要な人の流動性を大いに妨げるものでしかない。

高度経済成長期の地価が恒常的に値上がりしている時代には、幾度かの住宅の住み替えによって最終的に戸建て持ち家に到達するハウジングチェーンと呼ばれる住み替えの流れがあった。新婚時代の賃貸アパートに始まり、分譲マンションを経て、双六のアガリのように戸建て持ち家に到達する流れである。

住み替えによって発生するこのような人口の流動は、都市部への大量な流入人口が存在し、地価も上昇を続けている経済成長期において顕在化する現象だった。しかし、地価が高止まりして都市部への大量な人口の流入も途絶えた現在、人の流動性を担保していたハウジングチェーンの消滅と共に、地域は硬直化した環境に覆われるようになってきている。既成市街地内の高齢化と都市内過疎化、ニュータウンのオールドタウン化現象など、地域はそれぞれ異なった独特の課題を抱えるようになっている。

人為的に開発されているニュータウンには特にこの問題は大きい。最初から購入限度額ぎりぎりの戸建て住宅分譲から人口定着が始まっているため、双六のアガリから始まるこのようなまちづくりでは、次なる人の流動化が起こりようがない。将来の住宅購入層である若年層の流入が促されるローコストの賃貸住宅もなく、外部からの買い替え需要も減少していき、子どもだけが独立して出て行くといった環境の中で、莫大な投資によって全国に生まれたニュータウンはたった第一次購入者だけの一世代対応型開発事業として軒並み終息していく可能性が高まっている。

柔軟で活気溢れる地域社会を建設するためには、人の流動性を担保するための新たなハウジングチェーンが形成されなければならない。戸建て持ち家から始まって、中高年夫婦だけの小規模持ち家、便利な駅前の分譲マンション、更には老人向けグループホームといった新たな多様な住み替えチェーンを作り、環境良好な戸建てには子育て層の若年夫婦層が適切な家賃で入居できる健全な不動産流通環境を作るのである。そのためには現在整備が進みつつある持ち家推進以外の定期借地、定期借家などの制度の活用も大いに有効である。

日本人はまだまだ不動産取得、戸建て持ち家崇拝志向から完全には抜けきれないが、そのような常識に地域を委ねたままでは、人の流動性の減退による高齢化、過疎化、産業の不振などの地域の硬直化はますます進行することになってしまう。恒久的な地域社会の柔軟性を確保するためには、地価が高止まりした状態にあってもハウジングチェーンを実態化させることが出来る、新たな不動産流通システムの開発が行われなければならない。

 
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