3節.地域産業の育成支援


1.地域産業と生活の共生体制づくり


■生活の誘導

 地域産業に生活産業への転換を促して地域を巡る財と情報とサービスの域内循環チャネルのセルモーター役を期待するためには、まず第一に消費者である生活者の誘導を図る必要がある。産業が社会理念だけで自らの生産・流通体制を自助努力で改変していくことはあり得ない。産業目標を新たな方向に誘導するためには目に見える流通先の具体的な呈示が必要であり、そして、その担保策が生活者の編成にある。マーケットの組み立ては本来は産業サイドの自助努力の問題だが、情報発信力が弱く、企てを業にしにくい体質の地域産業に地域生活の支援役を期待するためには、行政が一定の支援体制を組む必要がある。

 地域には生成の歴史に裏付けられた必然があり、地域生活はその必然にそって営まれている。そうした地域毎の必然への対応は全国組織の大手企業には望むべくもなく、それは共に地域に生きる地域産業にしか求めるところはない。しかし、生活者の側からすればその論理は地域産業の活性化の理屈ではあっても、そのために生活者が結束しなければならない理由にはなりにくい。生活者は自らの嗜好性に基づいてブランド物も求めるし、デパートでも、利便性を評価してスーパーでも買い物をする。クオリティレベルに劣る地域産業に付合わなければならない理由は何処にもない。

人間は世の中に存在していないものに対して欲求を抱くことはない。従がって、地域生活への個別的対応を期待して地場産業と積極的に向き合おうという機運は、生活者の側からは自然には生まれてこない。かといって地域産業側にその様な企てを展開できる資質はあまり無い。それは、やはり域内の財と情報とサービスの循環に地域活性の意義を見いだす地方自治体の役割なのである。

 過度の情報化社会の中で、自分たちが必要とするものは本当は何なのかということをどのように地域生活者が自覚するか。地域産業の生活産業への転換によって生まれる、より豊かな地域生活の予感をどのように地域生活者に伝えるか。高次な欲求に対応できる新しい地域産業のあり方を呈示して地域生活者のまとまりを促すことによって、地域生活者と地域産業の間の財と情報とサービスの流通チャネルは実態化する。そのための生活の誘導の推進役が地方自治体に求められているのである。


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