■地域産業の誘導
地域産業の活性を誘導するためには、自助努力の誘発と異業種との連携強化の二つの支援策が必要になる。そして、自助努力は「商品・サービス」の質と、「従事者」の質という二つの質の連続的な高度化努力に求めることが出来る。商品やサービスのより高質化の追求と、従事する人間の資質をより高める努力が恒常的に図られる環境の中でこそ、地域産業の連続的な質の向上は具体のものとなる。
しかし、地域産業の支援領域の中には現状の維持に力点が置かれているものが多い。そのことが従事者の高齢化と、連続的な地域産業の衰退化を招く一つの要因になっている。地域産業の恒久的な活性を支援するためには、従事者と産業界の現状を維持する視点ではなく、常に新たな人材と技術の流入が促進されるための流動化支援という視点が必要なのである。
伝統産業を例にとってみても同様のことが言える。伝統は革新の連続に因ってしか地域に根付くことは出来ない。絶え間のない革新のエネルギーだけが伝統を今に伝え続けることが出来るのである。従って、革新力を失った伝統は"今"という実態からの乖離を起こすようになり、最終的には博物館の中に展示されるほどの程度の価値でしかなくなってしまう。
また、地域の中小の企業が、商品開発から製造、流通、販売にいたる企業活動の全機能を一社の中で備えているケースは稀であろう。地域の中で地域産業が生活産業を指向するためには、様々な業態の広範な連携体制を地域の中で作り上げなければならない。しかし、企業の広範な連携を促す異業種交流の動きは全国的に頻繁に行われているが、その多くは名刺交換会の程度の役割しか果たせず、共同化によって事業開発が具体化されているケースはさほど多くはない。
異業種交流による事業開発を進めるための支援活動に最も強く望まれることは、交流機会の設置ではなく、事業成功後の共同事業者各々の権利関係の保全にあると考えることが出来る。異業種交流を推進する公的機関は、企業を集めて交流機会さえ設ければ、後はニーズさえ合えば自然に共同事業化されていくものと考えている節がある。更にいえば、その後は民間企業同士の自助努力の領域として、関与を続けようというスタンスはあまり見受けられない。
しかし、共同の事業開発という行為が崩壊の危機に晒される最も危険な時期は立ち上がりの段階ではなく、実は製品化とともに事業が日の目を見る段階にある。このときに、往々にして最初に約束されていた権利関係が破棄されるのである。連携相手の中に大手企業が存在する場合には、中小企業の知的所有権侵害のリスクは更に大きなものになる。
従がって、地域産業を編成して生活産業化を促すためには、参加企業各々の権利関係の事前の調整が不可欠であり、事業化の推移を見守って、関係が変化したときには介入して公正な判断を下せるニュートラルな審判役の存在が必要なのである。中小の地域企業が安心して連携しながら生活産業に参入できるようにするためには、地方自治体が公権力も導入しながら、知的所有権の保護を始めとする各種の権利関係が保全されるための中立な審判役を努めなければならない。
TOP 戻る 次へ
2001 Shigeru Hirata All rights reserved.
Managed by CUBE co. ltd.