■新しい担い手の創造 

 より高次な地域生活のニーズに対応し、生活の全方位性の充実に応え続けていくためには、既存の地域産業の生活産業化を図るだけではなく、その活動可能範囲を超える領域に対応するための新たな生活周辺産業の起業化を誘導する必要がある。しかし、それは新たな制度や資金的な支援体制を用意すれば出来るといった類いのものではない。それは、豊かで成熟した地域社会の建設を人間としての使命と感じる人間同士が結束することによって始めて具体化される。その同志的結合による地域サイドの推進グループを核に、行政組織、企業組織にも働きかけを行い、同志的結合の輪を拡げて行くのである。

 民間非営利組織(NPO)を法人化する特定非営利活動促進法(NPO法)が施行されて以来、「NPO」という言葉が急速にもてはやされだしている。従来型の第三セクター組織が全国で軒並み破綻していく中で、それに変わるものとして期待されている訳だが、果たして、行政の補助金や寄付を当てにする体質の強いNPOが地域実態化のための有力な支援組織に成れるのだろうか。

 今まで述べてきたように、地域の実態化を事業として促していくことが出来るかどうかは運営に携わる人間に帰属している事業ノウハウや、地域社会の実態化を自らの使命とする精神の規範力の問題であって、新しい制度や組織が幾ら生まれたところで、それで社会の枠組みが本質的に変わるわけではない。まず制度や組織ありきという程度の発想では決して本質にたどり着くことは出来ない。従来型の行政や企業組織ではダメでNPOこそがその担い手だといった二項対立的な発想では、地域の中にまた新たな不完全な組織が一つ増えた程度の話にしかならない。地域を巡るあらゆる領域の関係者が協働しながら、人間を中心に位置づけた新たな社会の枠組みづくりを推進できる主体が求められているのである。

「新しき酒は新しき革袋に」というスペインの諺があるように、新しい地域生活のあり方に対応できる主体は、生活者と既存産業社会との間に位置する全く新しい活動主体の創設によって可能になるものと考えられる。そして、それは、一つには地域に生きる女性に求めることが出来る。地域の必然を肌で捉えて生活を実践している女性にこそ、新たな生活周辺産業の担い手としての役割を期待することが出来る。地域が望むものを実感として捉え、女性独特の人的ネットワークを通して商品やサービスに加工する。後述するイタリアの中小企業孵化事業なども参考にしながら、女性を主たる推進主体とする、地域対応力が高い新しい推進主体の設立を誘導するのである。

育児から開放されて起業化を考える三十代以上の女性は意外に多い。しかし、彼女たちは漠然とした社会貢献意欲は強いが、具体的に何を事業として展開すべきかを判断出来ているケースは少ない。従って、地方自治体が地域の必然と地域生活課題を明らかにし、多様化する地域生活ニーズへの対応という新産業領域を掲げ、その領域に彼女たちの起業化の方向を誘導するのである。そして更に、その主体と既存地域産業から転換した生活産業との水平分業をも誘導することによって、新たな生活周辺産業の起業化は一層のリアリティを持つことが出来るようになる。


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