第1節.西暦二千年時代に望まれる新たな社会の枠組み


1. 多元価値社会を目指しての社会の二重構造化の推進


■もう一つの社会の実態化の必要性

 人間が豊かさを実感できる社会は、個人の多様な価値観が何ら制約を受けることのない社会的環境のもとで具現化される。生きるうえでの多様な価値観が育まれ、生活を支える様々な機能が充実した社会こそが、私たちが目指すべき穏やかな二十一世紀の多元価値社会なのである。

 そして、多様な価値観は多様な生活要求の中に求められ、多様な生活は生活そのものが依拠する地域社会の中に求められる。私たちが健全な地域社会の創出に拘らなければならない理由はここにある。経済的繁栄に多くの意義を認めて経済偏重社会を形成してきたが、今度は多様な価値観の存在が守られる生活中心の社会を地域に求めようというのだ。

 これをマス経済社会体制の側から評価すれば、地域社会との二重構造化の流れは、閉塞状況にある我が国の産業社会に新たな産業目標を付与する効果と、顕在化する地域社会の中で再生が図られる地域産業への人材供与という、オーバーキャパ状態にある雇用環境の健全化という効果を期待できるものであるということができる。

 マス経済社会の金融セクションは限りないグローバル化の流れに足を踏み込んでいこうとしているが、その流れは製造業を中心とする実体経済にとってはむしろ弊害の方が多い。国家間の資本移動が進む経済のグローバル化の時代にあってもなお経済社会全体の実態を維持するためには、内需の振興が必要であり、モノづくりの振興は不可欠の要素として守られなければならない。そしてそのために必要なことが生活理解に基づく生産目標の恒常的な獲得なのである。

 しかし、対象となる生活に実態が乏しければ、生活を対象とする生産目標もリアリティを欠いた抽象的なものにしかならない。産業社会が健全な更新力を回復するためには、生活が実態的な存在であってくれなければならない。そして、生活が実態を取り戻すためには、地域社会が目に見える生活の舞台であってくれなければならない。生活が実態を取り戻し、地域単位に活発化する生活の集積によって生まれるであろう新たな日本の生活スタンダードに、産業社会の新たな活路は求められる。

人間としての実感、家族の再生、そして豊かさの実感。本来、それらは全て"地域"にあるはずのものだ。市場経済化するマス経済社会が置き去りにしてきた生活と地域と生活文化の再定立を図り、尚且つ、地域産業の生活支援体制をサポートすることによって多元社会の実態化を誘導しなければならない。

地域は企業社会からのUターン組を積極的に迎え入れて、生活者を軸に、共生型社会の実現に向けてマス経済社会との対等なパートナーを目指して躍進すべき時期を迎えている。マクロ経済の振興に偏った一元的社会を生活の多様性が担保される多元社会に変換するために、私たちは生活の依拠する場である地域の実態化の促進と、そこへの生活の多様性を担保できる機能の付与を図らなければならない。経済一元化社会体制の限界到達後の新たな社会の枠組みは、マス経済社会と地域社会の二重構造体制にこそ求められるのである。



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