2.地域の実態化の推進
■地域における新たな価値体系創出の必要性
恒常的に人と情報が集まる非日常空間の都会は現代人にとってひたすら魅力的で、ビジネス街を闊歩するビジネスマンも、またカッコ良い。それに比べて、人と情報の求心力の弱い都心部以外の地域にはわくわくとした未来を感じさせるような要素はいたって乏しく、生活と連続している働き場所も平面的で何となく魅力を感じさせない。高度経済成長の過程で醸成されたマス的なるものへのコンセンサスには圧倒的なものがあり、それがそのまま都市部と非都市部のこのような魅力の差となって表れている。地方で家業を継いだ多くの人間には、家の犠牲になったという一定の挫折感が常につきまとっていたことだろう。
数年前に東京に出張した折り、たまたま前日の新聞で読んだ「意識としての脱東京志向が増えている」という記事の話題を酒の席で何気なく披露したとき、その場にいた東京の人間は口をそろえてその話を言下に否定した。「それは違う。その記事はきっと、皆な東京に住みたいが住めない人間が多いという意味だったに違いない」と言い張って全くとりつくシマが無かった。日本人は全員が東京での生活に憧れているはずだという、東京人の宗教にも似た東京信奉の実態に触れ、私は唖然とした経験がある。
私たちが成長神話の呪縛から解き放され、豊かさを求めて生活の多様性を追求していけるようになるためには、生活の依拠する場である地域が人を引きつける魅力を十分に備えたものにならなければならない。人が金と情報を連れてくるのであって、人が集う魅力に欠けた地域には生活の重層性も、ビジネスの可能性も決して生まれることはない。しかし、半世紀に及ぶ東京一極集中化の時代によって地域の固有性の価値は全て否定され、地域は人が集う魅力に欠けた、何の存在感も発揮できない地理的空間と化してしまった。
地域文化を標榜することによって、大都市部を拠点とする企業文化に対抗するカウンター・カルチャーの結節点となることを地域社会が目指すためには、地域に価値観が付与されることが絶対的条件となる。地域に生活の基盤を確立したい。地域で働き、くつろぎたいという、生活が依拠する場である地域の魅力を創出しないかぎり、生活が賑わい、産業エネルギーが集積する魅力的な地域の具現化は難しい。地域の実態化を図るためには地域へのステータス性の付与は不可欠の条件であり、そのための魅力創出計画が展開されなければならない。
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