■地域の魅力創出計画の考え方
地域に対する価値観を醸成するためには、人間性から乖離した普遍性の追求に価値が一元化されている現在の社会に対して、人間に基本を置く、多様性を内包した社会のありように国民のコモンセンスを誘導する必要がある。人間不在の無機質で相対的なるものから、絶対的基準が存在する、人間中心の社会への価値観の転換を図るのである。
そのためには、生活が賑わい、生活を巡って重層的に情報が受発信される社会環境を地域の中で作り上げていかなければならない。地域住民に地域生活文化の体現者としての役割を期待し、様々な生活領域を積極的に楽しめる環境を地域の中に創り上げることによって、多彩でアクティブな生活シーンの創出を誘導する。地域という舞台の主人公である生活者が織りなす生活の躍動こそが、人が輝く魅力的な地域社会の具現化の証なのである。
そしてそれに次いで、生活の多様化を支える周辺環境整備策として、地域産業の活性を大胆に誘導して"地域は儲かる"という図式の確立を図らなければならない。地域産業の隆盛は地域での雇用機会の確保という直接的な効果だけに留まらず、地域生活の高度化支援や環境整備に繋がる地域への投資などの様々な副次的効果を生む。そうした環境を誘導するために、地方自治体が中心になって、生活者や異業種、更には大手企業も誘導しながら、様々なレベルでの水平分業を支援して地域生活と産業の同時活性手法の開発を行なわなければならない。そしてそれによって"もっと儲かるまちづくり"を大胆に推進するのである。
また、それと並行して地域生活文化の振興も重要なテーマとなる。生活文化は地域にアイデンティティを付与し、生活に潤いと重層性をもたらしてくれる。そしてまた、地域産業の活動方針にも一定の指針を与えることができる。第U章で述べたように、文化が地域が根付くためには幾つかの前提条件が整っていなければならないが、生成の歴史に始まる地域の必然を理解して、その延長線上に地域生活文化の振興を見通すのである。そして、地方自治体は大学や文化関連団体などの様々な機関、団体との連携も図りながら、出来うるかぎり重層的な文化醸成環境の創出に努めなければならない。
このように、地域の様々な領域の担い手を編成・誘導することによって地域の実態化と魅力の創出は図るのだが、更に重要なことは、それらの様々な取り組みを総合化された独自の地域情報として対外的に発信できる機能を持つことである。東京一極集中の画一化した社会体制は、東京以外の地域のオリジナルな価値を全否定するものであり、そのような社会構造の下で地域は固有性と情報発信力を失って久しい。地域を評価しようとする体質もものさしも無くしてしまい、今では地方の生活情報さえも東京を経由しないと入手できない状況になってしまっている。地域の魅力創出のための様々な活動をアイデンティティに満ちた地域として情報に取りまとめ、強力に発信していくことも重要だ。
地域の価値を高めるこのような試みに始まって様々な地域の総体的ポテンシャル・アップ計画を積み重ねれば、停滞化するマス経済社会から地域への、人材をはじめとする様々な財のスライド現象も現実のものとなる。
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