第2節.西暦二千年時代の人間中心の社会に向けてのソフト・ランディングの構図
1.多重ネットワーク生活圏構想の推進
■地域コミュニティ実態化の考え方
地域のコミュニティ・ネットワークは、生活の多様化を求める個々人の営みが活発化すれば、周辺の生活者の潜在生活欲求の顕在化を促しながら自然に強化される。そして、そのネットワーク・チャネルが重層的に成れば成る程、その地域は住んでみたい、住み続けたい魅力的な地域になっていく。地域コミュニティは、単にコミュニティホールが建設されたからといって促進されるような類いのものではない。
したがって、その顕在化を人為的に促すためには、コーディネート役を担う人間に生活に視点を合わせたヒューマニティに富んだ着想力と行動力が求められる。新たな制度をつくって既存の地域団体に事務的に案内を出しても、それによって地域コミュニティが醸成されるわけではない。無機質な組織の論理のままでは有情の世界のコーディネートは適わない。地域コミュニティの実態化を図るためには、地域生活を社会の最上位に捉える思想が推進する人間に求められなければならない。
また第W章で述べたように、まちづくり行政は住民の私権の侵害につながる領域と、理念だけで進めることができる領域を同じ枠で捉えて、その推進を最初から住民間の自主的な調整に委ねようとしてはいけない。生活仕様の多様化につながる興味参加型のコミュニティの醸成から始まり、その十分な成熟の次なる段階として、権利の調整を含む実態的なまちづくり活動へと段階的に誘導をおこなうのである。
しかし、具体的なまちなみ整備などのハード事業は補助金の支出も伴い正規の行政活動として認知されているが、興味参加型のソフトなコミュニティの振興事業の必要性は、行政内部においてはあまり認識されていない。そのため、いきなり最初から住民の権利の侵害につながる地域整備事業に地域住民のコンセンサスを得ようとするが、その結果は、当然のこととして近隣住民間の遺恨だけを地域に残すことになってしまう。
土地の私権が絶対的に認められている我が国においては、まちづくりという「公」が「私」に近づく活動には相応の知恵と時間が必要になる。「まちづくりは住民が主人公」という美しいキャッチフレーズの下に、住民にいきなり責任を押し付けてはいけない。まちづくり行政はかなりの部分で私権と対立する要素を持っている。したがって、私権を越えてまちづくりという「公」に理解を求めるためには、相当の時間をかけて、興味参加型のコミュニティの醸成から始めて、最終的に権利の制約につながるまちづくり事業に辿り着くようにしなければならない。多重ネットワーク生活圏構想を掲げ、地域生活の密度を高めることを目的として連帯できる興味参加型のコミュニティの成熟を待って、次なるコミュニティレベルの段階に駒を進めるのである。
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