■マス経済社会による地域社会の安定化支援

 現在の日本人の漠たる不安を生み出している一つの大きな原因は、全てが相対評価の中でしか推移しない経済社会が持つ、何処まで行っても着地点の無い不安定さにある。明日は今日より素晴らしいと、高度経済成長期の頃に私たちは洗脳を受けた。しかし、明日は永遠に今日になることはない。そのような中でのバブル経済期以降の不況は、逆に明日は今日より貧しくなる可能性を生み出している。私たちは昨日に向かって逃げなければならないようになるのだろうか。

 生活を中心に廻る安定した社会を手にするために、私たちは外的要因に翻弄されることのない、確固とした基準が存在する地域社会の創出を目指さなければならない。地域生活の自己完結力を高めることを目的として、地域社会の実態化を推進するのである。そのことによって、二十世紀とは異なる穏やかで安定した社会を私たちは手にすることができるようになる。

 伝統的に地域の中心となってきた寺という施設は、拡大再生産型の運営方式ではなく、地域社会の完結した自給自足体制のもとに運営が行われている。しかし、その寺も自らが依拠する地域社会が疲弊すれば、やはり存続は危ぶまれることになってしまう。マスの単位で見ようと、地域の単位で見ようと、社会が安定的に推移するためには、やはり一定の経済力が必要なのである。安定した社会を目指して地域社会の自給自足体制の強化を図るべきなのだが、我が国に数限りなく存在する"地域"の健全な推移を期待するためには、一方でマス経済社会の健全な推移が図られていなければならない。健全な地域社会は健全なマス経済社会のもとでこそ存続することができる。

 マス対地域という、従来からの資本の論理と生活の対立の構図ではなく、地域と地域産業振興のための一定の旦那役を地域と連携しながら果たすという役回りをマスが演じられれば、フットワークの悪いマス経済社会であっても新たな地域戦略の展望は可能になる。そして地域社会との合意に基づくマス経済社会の地域への進出は、様々な形による事業エネルギーの地域への伝播という重層的な波及効果を生み、総体的な生活環境質の向上を約束してくれるようになる。


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