第3節.西暦二千年時代を生きる
1.多元価値社会の成立に向けて
■全方位的循環型社会の建設
最近、「循環型社会」という言葉が盛んにマスコミなどで登場するようになっている。それは、二十世紀の科学技術の進歩を背景にした産業拡大や経済成長の一方でもたらされた、環境破壊や資源の枯渇という新たな社会問題を克服するために、資源のリサイクル・システムの確立を目指して標榜されている。大量生産、大量消費、そして大量廃棄という経済偏重社会の必然的現象は見直されなければならない重要な問題である。しかし、経済成長の維持を社会の至上の目標として掲げ、成長率の僅かの数値の低下にも脅える現在の経済偏重社会に生きてきた私たちが、それをあらゆる社会領域にまたがるコンセンサスとするためにはまだまだ多くの時間を必要とすることだろう。
かつて、難易度の高い達成基準のために克服が疑問視されていた排ガス規制基準を世界に先駆けてクリアした技術革新力が、日本の自動車業界を世界の中で圧倒的優位な位置に導いたように、廃棄物の発生率が極度に低いリサイクル型製品開発のための技術革新は、我が国産業界にとって大きなチャンスとなるかもしれない。しかし、そもそも資源や環境の問題を、廃棄物の発生抑制やリサイクルという、産業活動の"出口"に特化した対策だけで図ろうという考え方では真の省資源型、環境対応型社会にはなかなか辿り着けない。
西暦二千年時代を生きるにあたり、私たちは経済的価値に一元化された社会体制から、人間を中心に据える多元価値社会へのシフトを図るべき時を迎えている。そして、その社会はマス経済社会と地域社会、大手企業と地域産業、生活者と産業界、そして生活者と生活者というように、社会を構成しているあらゆる人と領域の間を財と情報とサービスが循環する構造の下で実態化されていく。
「環境」とは環になった境と書く。その環の中を人間の英知だけが、特定の産業技術だけが、経済システムだけが突出してはいけない。特定の領域だけに突出した進化論は地球全体を包んでいる環になった境を突き破り、結果として環境という地球全体のバランスを壊すことになってしまう。人間の営為を中心に、それを包むあらゆる社会領域の活動がバランスよく連鎖してこそ地球環境は守られる。そしてその中を財と情報とサービスが秩序を伴って循環することによって、生活の質は安定したバランスの下に高まりをもつことができるようになる。
循環型社会の推進論は、廃棄物発生抑制を求める「出口」だけに偏った産業技術論であってはいけない。生産と消費、ネットワーク型産地の形成、地域と地域産業、マス経済と地域経済、地域生活と生活文化。社会を構成しているあらゆる要素を人間を中心に全てが連鎖する構造へと変換を進める、生活を軸にあらゆる財と情報とサービスが循環する全方位的循環型社会建設論でなければならない。
TOP 戻る 次へ
2001 Shigeru Hirata All rights reserved.
Managed by CUBE co. ltd.