■マネジメント・システムのあり方

役所には"係長行政"という隠語がある。意思決定に関わる裁量権が係長に任されている範囲が多いことから生まれた言葉だが、実際には裁量権がトップとボトム(係長)に二極化した構造になっている。したがって、この意思決定システムは、上に行くほど決定権が増大する企業組織のシステムとは大いに異なっている。

このような意思決定システムによって行政組織が運営されていることの理由の一つに、地域対応を仕事の基本とする業務の特殊性が挙げられる。地域には異なった状況に置かれた様々な人間が生活を営んでおり、多様な生活要求が混在している。それに応えていくためには、対応者サイドにも多様な価値観に対する理解力と柔軟な対応力が必要になる。取り組み姿勢が組織的に一元化されていると、圧倒的に不利益を被る住民グループが多数生まれることになってしまう。そうした事態を避けるための手法が、この係長行政である。

マスマーケットが消滅して最大公約数が実像を結ばなくなってしまった現在、企業社会においても、今後は消費構造の多様化に対応するための多様な展開が求められる。しかし、裁量権が現場から離れたところで一元化されていたり、トップダウンの運営システムのままではその対応は極めて難しい。意思決定のレベルが現場から離れれば離れるほど、その判断から実感は薄らいでいく。そして、実感を伴わない業務が幾度繰り返されたところで、その積み重ねが組織の中にノウハウ化されていくことはない。

それにも関わらず、属人的体質に乏しく、個人の意志を尊重することができない企業は、システムによるマネジメントやリスク管理を何処までも続けようとする。しかし、無機質なシステムのままでそのようなことがやり遂げられるはずはない。そのような環境の中で育つ社員は、何が正しいかを考える人間には成れず、如何に指示を守るかということにしか考えが及ばない。

実は、社員に能力を求めることはさほど難しいことではない。問題は活動結果の意味を誰がどのように把握し、それをどのように組織の中に吸収していくかにある。ノウハウはあくまでも人間を評価できる環境の中でしかストックされない。したがって、企業は、個別部隊毎の自己責任体質の強化の下に個別の業務体験を組織の知恵に集約させていける、"係長行政"の企業版システムを開発しなければならない。そして、獲得されたノウハウを人から人へ伝承できる新しいネットワーク型マネジメント・システムの開発によって、不確実の時代の拡大再生産活動に取り組んでいかなければならない。


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