■循環型事業開発のスタンス

 社会に存在するあらゆるものは人間の営為を中心に廻っており、何一つその連鎖の輪から独立して存在することはできない。そして、企業社会が生み出す財と情報とサービスもまた、その連鎖の輪の中を循環している。

しかし、高度経済成長期の大量消費時代に慣れた多くの企業は、いまだに事業とマーケットの関係を固定的に捉え、その中で直線的にシェアの拡大を図ろうとしている。高度経済成長期には消費者が商品を使い捨てていたが、見方を変えれば、実は企業も消費者を使い捨てていたということができる。マスマーケット消滅の時代であるにも関わらず、人間社会の連鎖の構造に目を向けることなく、人間の中のある特定の要求だけを対象に固定的に事業を組み立て、それを資本の力で面的に拡大していこうという発想自体が陳腐なものになろうとしている。

コンビニエンス・ストアという業界がある。この業界は取扱商品についての専門性が低く、脱サラ人間を経営者に仕立てたり、店舗の設えも簡易でと、過去においては何かと軽んじられがちな業態だった。しかし、近年は銀行業務の領域に参入したり、宅配やギフトの領域にも進出して生活全般に対する対応力を急速に拡大させながら存在感を強めだしている。

阪神淡路大震災の直後、被災地では道路が寸断されて大渋滞が発生し、食料などを運搬する物流機能は完全に麻痺状態になった。そのため、被災地内ではどの店舗も品切れ状態を起こして早々にシャッターが降ろされたままになったが、そのような状況にも関わらずコンビニエンス業界の店舗は開き続けた。本部では被災地内の全店舗の営業継続を最大の企業使命と捉え、日々刻々と変る道路状況の中から新たな搬入路を探しては、被災地に食料や生活必需品を送り続けたのである。被災地では、店舗の前に毎日張り出される商品到着予定時刻の前になると、食糧を求める被災者たちの長い行列ができていた。

コンビニエンス業界がこのように高い社会性を身につけながら躍進を続けているのは、地域毎の生活を見据え、完璧に対応するということが事業の基本となっているからだと考えられる。事業へのその様な取り組み姿勢が決して誤ることのない事業展開を可能にし、連続的な事業の高度化を導いているのだ。

従来の企業社会の画一的な対応の枠から拡散してしまったマーケットの実態にもう一度迫るには、人間の営為(生活)の連鎖構造に着目する必要がある。単に無機質な縦割り組織の中で机上のバーチャルな業務に携わっているだけでは、多様化するマーケットの実態は捉えられない。生活には重層性があり、それぞれが連鎖する構造にある。そうした生活の構造全体をマーケットとして捉え、連続的な対応を図らなければならない。

そのためには既存の業種、業界の常識や枠組みに捕らわれていてはいけない。人間を中心に巡る財と情報とサービスの循環性を認識して、その連鎖の構造に沿って対応力を高めることが今後の限定マーケットの時代に望まれる新しい事業運営のスタンスなのである。


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