■女性の実感の展開の考え方
それでは、次世代型論理として今後の成熟社会に期待されるべき女性の論理とは一体どのようなものなのか。女性の論理は、あくまでも自分自身の経験を次のステップの思考や行動の起点とするため、基本的に生活の延長線上から乖離することはない。組織の論理に振り回されることの無い、生活を上位に位置づけた人間的でしなやかな価値観。この女性特有の性質に、自らが作り出した無機質な環境の中で産業目標を喪失して久しい企業社会の新たな可能性を見いだすことができる。
文化やノウハウは属人的な体質が極めて強い。そのため、無機質な企業社会に身を委ね、人間としての信条に基点を置かない男性に文化は根づきにくいし、ノウハウがストックされることもない。家族の健康やそのための食生活のあり方。人間にとっての心地よさや知的・文化的興味。自然と触れ合える生活環境や子供の健全な成長への期待。こういった人間の生活を巡る、女性が当たり前に関心を寄せている領域に、本来は人間から乖離できるはずのない企業社会との基本的な部分での接点がある。
しかし現状はといえば、そのような女性の特性が男性論理の社会の中で十分に機能していると言える状況には決してない。その主な理由としては、男性論理の社会構造に参入するための女性の普遍化能力の低さという点が挙げられる。女性の論理は自分自身の実感や気づきによって組み立てられているために、それを人間的なものを評価する体質に乏しい企業社会の中で普遍化し、産業活動の中で増幅させるという作業がいたって難しい。自分自身の実感を、ヒューマンスケールをはるかに越え、男性論理が支配する無機質な企業社会の企てに変換しなければならないからである。
しかし、異性の論理で構成される社会を性差を超越して実感するということは、実は男性にとっても至難の技であろう。
また、性差を超越しての普遍化作業が難しいとはいうものの、一方で、女性も弱者としての常識に甘んじている部分もあるのではなかろうか。男性論理の企業社会の中で、自らをひたすら受け身の立場に置くことによって安住を図ろうとし、結果として取り残され、孤立化してしまう道を選んでいるように見える。
そのような就労環境の中で、女性論理の健全な展開を期待するためには、企業組織の中に男性論理との適切な分業関係を構築する必要がある。共通言語を持ちえない男女が混在しているにも関わらず、一つの価値体系の下で押し進めようとする従来型の組織構成ではなく、女性と男性との適切な水平分業によって運営を図るのである。
男性論理と女性の実感の二項対立関係ではなく、女性の実感によって得た着想を男性が普遍化、増幅して事業化を図る。そして最終段階の消費者との接点では女性がオペレーションを担う。男性と女性の異質な得意領域の組み合わせによる事業運営手法の開発に、混迷する過渡期なりの一つの未来を見通すことができる。
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