第1節.地域にとっての地域産業存在の意義


1.地域生活支援機能としての地域産業の新しいあり方


■生活支援産業への転換

 高度経済成長の流れとはマスプロ化の流れであり、大手企業による大量消費社会の形成は生活者を単なる売り込まれる対象でしかない消費者に変えていった。産業が生活者に奉仕するのではなく、東京一極集中の経済システムの中で、生活者はその成長をサポートするための消費部門を担当する一構成員でしかなくなってしまった。この効率重視の大量消費社会の流れは、生活者に全国画一の生活を強いるものであり、生活の多様性に一定の制限を加えるものだった。効率を絶対的な条件として掲げることによる個々の消費者への対応力の低さが、大手企業中心の経済システムの一つのウイークポイントであるということができる。

 そしてそれとは逆に、この顧客対応という部分に容易に能力を発揮できる潜在的可能性を秘めているのが、地域で生活者と生活を共にしている地域産業である。地域での生活者との距離の近さによる生活者ニーズに関わる情報収集の容易さと、それに関わるコストの安さ。そして、生産力、販売力に関する規模の限界性や、地域での事業完結構造が逆に容易にする顧客対応型の事業展開。地域で生活と渾然一体となって存在する地域産業は、こうした事業の小規模性を逆手にとった、フットワークの良い生活対応型の産業領域に参入出来る恵まれた環境下にある業態であるということができる。

 それにも関わらず、今までの地域産業の多くは、東京を頂点とする画一的な大規模経済ネットワーク体制の末端処理を担当する下請け的な存在でしかなかった。そのため、地域で生活と渾然一体の関係にあるにも関わらず、その視点は足下の地域ではなく東京に向けられていた。地域に存在しながら間近の地域を見ようとしない産業者集団。それが従来からの地域産業の姿だった。

 事業所の前を毎日行き交う主婦の活動目的や行動パターン、その子供世代のファッションや趣味、そして行動パターンを観察してみる。そして、日々何気なく交わされる彼らとの日常会話に注意を払う中で、地域の特性に立脚した生活者の嗜好性を感じ取ることができるはずだ。そして、マクロ社会の流行の変化と地域社会の変容がクロスする中で、その嗜好性は必然的に変化していく。第T章第三節の「感性のマーケティングの奨め」で述べた自分の実感を基本に置くマーケティングの考え方は、当然のごとく地域産業従事者にとっても必要な手法なのである。

 マクロ経済社会が次なる未来を手にすることが出来ずに閉塞感だけを募らせている中で、地域産業の今後の積極的な未来は地域に目線を合わせた"小さいからこそ出来る戦略"の開発による生活支援型産業への転換にかかっているといっても過言ではない。生活者の側から見ても、全国を画一的に流通している商品やサービス以外の、地域に必然性が高く、また自らの生活要求に基づいたオリジナルな商品やサービスが提供されることは、地域生活の充実に大きく貢献してくれることになる。つまり、従来は生活者とは何のコミュニケーション・チャネルもなく、背中合わせの併存関係の中で定住阻害要因でしかなかった地域産業の存在が、生活産業への転身によって地域の大いなる付加価値に変身することが出来るのである。


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