2.中小製造業の生活産業への転身
■生活産業への転身によって図る企業としての主体性の奪回
社会全体が一定の成熟段階を迎えた現在、我が国の産業社会は次なる産業目標を定立することができず、混迷した状況の中で閉塞感だけが強まりつつある。そして、そのような逆風の社会環境に加えて、大手メーカーの安い労働力を求めての工場海外移転は下請け企業群から見れば直接的に発注元を失わせるものであり、我が国における小規模製造業の存立基盤は何処にも無くなってしまったように見受けられる。技術力の向上による経営の健全化も大手メーカーによる健全な発注環境があってこその話であり、親方(大手メーカー)の存立基盤が揺らぎ出している状況においては、下請構造にある中小製造業の未来は自助努力の範疇を大きく越えてしまっているということができよう。
大手メーカーは自社工場周辺に協力工場という名の下請工場群を編成しており、産業社会が健全に推移している時代はこれら下請企業群の経営の面倒を見ることもできた。しかし、実体経済の停滞化と共に不振にあえぐようになった大手メーカーは軒並み、下請企業群との関係の見直しを図りだしている。鉄の団結を誇ってきた企業グループが手のひらを返したように、今後は自らの力で生き残りを図っていくようにと、下請企業群にこれまでの関係の清算を通告する例は枚挙にいとまがない。
そのような環境の中で中小製造業が存続を期する一つの方策が下請構造という垂直分業体制からの脱却である。価格決定権も認められず、大手企業に生殺与奪権を握られたままの状態で企業の活性を図ることは不可能に近い。中小製造業は下請構造から脱却して自立出来る展開を目指さなければならない。
そして、そのことを志向した時の主要な課題は、"何を"作って"何処に"流通させるかということに集約される。その二つの課題の同時解決を、地域や地方自治体とパートナーシップを組んで生活産業を志向することによって図るのである。地域生活の活性化、地域社会の実態化の推進という目標の下に、地方自治体と連携を図りながら地域生活課題の克服に向けて自社のモノづくり技術をもって取り組むのである。
まず地方自治体との連携により、一つ目の「何を作るか」という課題を地域生活の課題の中から明らかにする。地域の課題は生活課題であり、その克服は生活者ニーズの最大公約数的な部分に応えることになる。したがって、地域課題は産業課題であると言い換えることができる。
そして、行政主導の地域コミュニティの実態化は、言い換えれば地域マーケットの実態化であり、これによって二つ目の課題である「何処に流通させるか」という問題もある程度自動的に解決されることになる。下請構造にある地場製造業の一方の活路である自主独立の道は、一つにはこのように地域や地方自治体との連携による生活産業への転換に求めることができる。
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