■生活産業への転身を図るうえでの地理的優位性
地域の製造業が下請け構造からの脱脚を目指して生活産業を志向すべき一つの根拠は、事業所の立地特性に求めることができる。地場製造業は既成市街地で昔から住宅と渾然一体となって分布しているケースが多い。そのことは生活者の生活パターンを読んで対応を図ることが極めて容易だということを意味している。
一般的に、消費者ニーズを入手するためには東京発の情報を有料で入手したり、独自にマーケティングを行わなければならないと考えられている。私が企業から業務の委託を受けて打ち合わせしているとき、小さなコンサルタント会社であるが故に「貴方はどのようにして東京情報を恒常的に入手しているのですか。」という意味のことを聞かれることがある。
"東京情報"とは一体何を指していわれているのだろう。計画される事業戦略が全国規模のものでない限り、最も重要な課題は"地域の必然の理解"にあるのではないか。消費者情報ということに関して言えば、それは所詮、様々な地域の生活上の、ビジネス上の営為に関する情報が東京で集約され、加工されたうえで情報として再発信されているだけのものでしかない。それならば何もわざわざ地域発、東京経由という一周遅れの東京情報に頼らなくても、生活者の志向性を肌で感じて地域の動向を読み、変化を予測し、後はそれに企業ニーズと若干の社会動向を組みあわせれば、図るべき展開の方向は自明のものとなる。人の心の理解と、地域と生活を肌で感じることと、それらを普遍化させるための偏差値を持っていれば、どの地域であろうと企画の開発はできる。重要なのは東京情報よりも、地域と地域生活の実態を直接的に把握することである。
地域の製造業の商品開発のヒントは、半径五百メートル圏内の生活者をどう理解するかにある。その範囲の中で顔の見えている生活者の営みを実感をもって理解することが重要なのだ。地域に必然性の高い開発方針の答えは、決して東京情報にはない。また東京情報にあるような答えは、所詮資本と組織の論理にからめとられる類いのものでしかない。地域生活を見据える中で、地域発逆全国普及商品の開発を志向するのである。
生活者と渾然一体となった立地条件を活かし、第T章第三節の「感性のマーケティングの奨め」で述べた実感のマーケティングによって生活産業としての展開を図る。地場製造業が生活産業への転身を図ることは、立地の優位性を背景とする事業戦略の一つの必然であるということができる。
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