■生活者への対応力強化の視点
それでは、地域商業はどのようにして地域のニーズを把握して、どのように対応していけばよいのか。そのためにはまず地域を知り、そして今後の変化を予測するために、地域の過去から現在までの変化の流れと、市町村域全体の中での自らの地域の位置づけ、そして今後の周辺の開発動向を把握する必要がある。
地域というものは偶然性に任せて脈絡無く変化することはない。市街地化はある時期に、さほど長くない期間の中で一斉に進行する。また、リニューアル時期も同様に、ある一定時期に同時多発的に進行する。これらの変化は行政の地域整備方針に基づいているときもあるし、自然発生的なときもある。
次に、そうした地域の変化にあわせて変化するのが生活である。地域の変化は居住者の量的な部分や属性、生活パターンなどに様々な影響を及ぼす。そして、地域の生活構成員や生活パターンの変化によって、要求される商品やサービスの内容と質は自ずと変化していく。そうした地域の変化によるニーズの変化と、流行などの社会全体の変化との組み合わせの中に、地域商業が提供すべき商品やサービスは存在していなければならない。
それでは、そのような地域の変化と、それによる生活ニーズの変化をどのようにして早期に察知するか。それには、まず第一に過去から現在に至る地域の変化を資料を基に理解したうえで、その変化のベクトルの先に近未来の生活の変化を予測しなければならない。そして地域生活を観察する中で、自らの予測を確信に変えていくという作業を行なうのである。この地域生活の観察にあたっては第T章第三節で述べた「感性のマーケティング」という手法も有効である。
以前、ある商店街のお茶の葉を扱っている商店主から次のような話を聞いたことがある。「毎年秋になる頃から麦茶の仕入れを徐々に減らしていって、冬になる頃には仕入れを止めている。ところが最近は麦茶の注文があまり減っていかず、ついに去年は冬になっても麦茶の注文が続いたために品切れ状態を起こし、慌てて仕入れをするのに走り回るはめになってしまった。」その理由は、最近、その周辺地域で住宅のリニューアルが急速に進んで、住居の機密性が従前に比べて飛躍的に向上したためにどの家も暖房が効きすぎるようになり、冬でものどが渇いて麦茶が売れ続けたとのことだった。
情報とは「情けを報じる」と書くと第T章で述べた。地域や人の動きの変化を予測するのはデータ分析による無機質な理論や知識ではない。人に対する限りない興味や思いやり、そして優しさ(情)がそのことを可能にする。地域生活に奉仕することを目的として存在している地域商業者が生活者への対応を確かなものにするためには、地域の課題を常に人間的な視点で捉えることができる感受性を持ち続けなければならない。
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