2.地域生活者への対応力強化の考え方


■商店街組織の存立意義

 商店街はそもそも駅前の通りなどの生活者の日常動線の多いところに商店が自然発生的に集積することによって形成されていった。したがって、その使命は地域生活者の生活利便性向上への貢献ということに尽きる。地域生活者の志向性や消費動向を見極め、それに積極的に応えることのできる商品やサービスの開発と供給に努めるところに、地域商業の存立意義はある。そして、その地域生活に応える連続的な努力が地域商業の安定的発展と地域生活の利便性の向上を導く。

 しかし、戦後五十年を経て、世の多くの商店街は今やその流れにはない。連続的な地域商業衰退化の流れは、商店街の存立理由の自己目的化とそのことによる地域との関係の希薄化を招いた。地域生活者は大規模小売店に全幅の信頼を寄せているわけではない。そこで売られる商品の質にしろ、値段にしろ、無条件に商店街より優れているとは誰も考えていない。購入商品が全て一ヶ所に集中しているという程度の利便性がそこに足を向かわせる原因なのである。しかし、商店街にはそれを補えるどんな価値があるだろうか。大規模小売店の商品の一ヶ所集中というベーシックな利点すら商店街は克服出来ていない。

 存続を守るための自己目的化の考え方についても目を覆いたくなるものがある。大規模小売店進出反対、地域開発反対、果ては地域のアクセス向上のための鉄道線の延伸にまで反対を行う。かつてある商店街で地域への鉄道線の延伸計画反対という話を聞いたとき、私はその反対の理由が即座に理解できなかった。「地域の交通利便性の向上は新規定住者や来街者の確保に繋がり、地域の活性に大きく貢献するのではないか」という私の疑問に対して、ある商店主は「鉄道が延びて都心と直接つながったら、自分たちの地域の消費を都心に取られてしまう。だから計画に反対するんです」と答えた。

 私は呆気にとられて言葉を失った。地域の発展の可能性を自分たちの利益に反するとして反対する商店街は、地域の住民にとってもはや自分たちの正当な権利を脅かす敵でしかない。地域を人質にとって行政や企業とわたりあう商店街の存続意義など何処にあるというのか。

 商店街は地域生活の利便に供することを目的として存在している。その地域生活の豊かさや利便性への向上に対して恒常的に努力することによって、はじめて商店街は地域の評価や支持を得ることができる。そのような関係性が築かれているかぎり、仮に商店街の不利益につながる何らかの開発計画が起こったとしても、地域住民が決起して商店街のために反対してくれるようになるだろう。何となれば、その商店街こそが自分たちの地域生活を最も良く理解して支えてくれる、かけがえのない生活のパートナーなのだから。


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