4.小さいからこそ出来る戦略とは


■希少性の追求

資本と組織の論理を背景とする高度経済成長期がマスマーケットの消滅と共に失速してしまった現在、規模の論理に代わる新たな事業戦略の視点が求められるようになっている。そして、実はそこにこそ地域商業が生きる新たな道が生れようとしている。本来の得意領域だった規模の論理が逆に事業そのものの足を引張る要素に転じようとしている産業社会の現状の中で、地域商業の小規模事業性を逆手にとって小さいからこそ出来る戦略の開発を図るのである。

地域商業にとっての小さいからこそ出来る戦略とは、一言でいえば希少性の追求に尽きる。マス経済の論理は規模の論理であり、量を整えることが出来ない商品を大規模小売店で中心的に扱うことは難しい。地域で望まれる商品を地域単位に仕入れて提供しているわけではなく、生産、流通、販売効率を全てに優先させながら、規模の論理に基づく効率商品を売り込んでいるのである。ここに量販店の果すべき役割もあるが、同時に短所もある。

 地域商業が大規模小売店に伍して戦っていくためには、地域商業は大規模小売店と同じものを扱うべきではない。常に地域に望まれるものを確認し、そしてその声に最も応えている商品をあえて希少なローテクの生産体制の中に求めるべきである。量による効率の論理に立ち向かえるものは、小さいがゆえの希少性の追求でしかない。

地域商業団体は個店単位の販売量が大きくないことを武器に、全国の地域産業や、周辺の中小製造業などの大量販売組織が望む生産量を整えられない生産団体と連携を取りながら、量産は利きにくいが優れた商品による品揃えを図るのである。それには、同じく資本と組織の論理からはぐれたことによって不振に悩む地方の市町村の農林漁業との提携も望ましい方法であると考えられる。

地方の市町村活性化の基本の一つは、都市部との人(観光客)とモノ(産品)のダイレクトな流通チャネルの形成にある。しかし、農協などの流通面での既存中間組織の介在は地域単位の独自の個性(意味)を殺してしまい、都市部との本質に根差した需給ニーズに応えるダイレクトなチャネルにはなり難い。地方のロットが整いにくい優良産品と量販性の追求が難しい都市部の販売拠点である商店街が連携することによって、二地域の活性の同時達成が可能になる。

 また、前節の中小製造業活性の考え方で述べた地場製造業によるオーダーメイド展開との連携も、地域の総体的な活性支援策として重要であると考えられる。生活産業への転換を目指す地域の中小製造業と連携を図り、顧客ニーズの把握と直接的な販売の部門を担当して、地域にオリジナル性の高いオーダーメイド商品を供給することを商業領域からサポートするのである。

 製造業や農林漁業などの地域産業は総じて販売に関するノウハウに欠けているケースが多い。そのため、どんなに優れた商品開発努力も販路の問題で頓挫していき易い。農業の若手の意欲に燃えた低農薬の有機米づくりも、農協や米穀店などの流通の何処かの段階で混米されてしまえば、その努力は瞬間に消し飛ぶことになってしまう。こうした製造サイドの新しい取り組みの意欲を、販売を担う側から商いとして支援するのである。

 地域商業によるこうした小さいがゆえの一連の戦略は消費者である地域生活者にとっても本物の時代の要請に応えてくれるものであり、その店ならではという希少性の付与という点からも買い物の楽しみを増すものとして歓迎されることになるものと考えられる。


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