■生活上位のコーディネイト思想と施策展開手法の確立
人間を包んでいる生活は住宅問題から余暇生活、就労、教育、福祉などの多岐に亘る要素の組み合わせによって構成されている。そして、地方自治体から見ればそれらの構成要素全てが行政課題であって、その一つ一つの課題ごとに役所内部に対応すべき部署が設けられている。従がって、行政課題として定立されている様々な課題に取り組む際には、どの部署であろうと、地域生活の全方位性の充実を上位の目標として具体の活動方針が組み立てられなければならない。
しかし、住宅問題は住宅局、産業問題は経済局、福祉問題は民生局というように、生活を縦割りにして、顕在化している具体の問題の解決だけを目標とするような取り組み姿勢では地域生活の充実という真の目標にはなかなか到達出来ない。このような業務環境の元では、例えば、地域に対して莫大な資金が動く再開発や区画整理などの事業も地域生活の全方位性の充実といった方向に向うことはなく、単なる土地の切り直しという土木工事のレベルで収束してしまうことになってしまう。
また、それ以上に問題なことは、地域が地域としての実態を持ちえていない我が国の現状があるにも関わらず、地方自治体の取り組みは地域に実態があるという仮定に基づいて行われている点にある。「住民と一体になって…。」というフレーズはよく耳にするが、現状においては地方自治体の何らかの地域政策を住民と一体となって推進できる具体的な方法はない。どの部局も地域に実態があるかのごとく施策を展開しようとするが、現実は地域に実態が乏しいためにその方針を地域が受け止めることが出来ない。町内会などの既存の地域組織も所詮は任意参加の団体に過ぎず、地域の総意に基づいているわけではない。
U章で述べたように、欧米とは異なり、地域が自然発生的に生まれている我が国では地域コミュニティの存在はまだ幻想でしかない。従がって、個人の生活者と役所組織という関係のままでは、行政が地域と何らかのコミュニケーションを図ろうとしても必然的に壁が生まれてしまう。生活者という個人と役所という組織の間に何らかのコンバーター役となる機能が介在しないかぎり、個人の生活要求が如何に正当なものであったとしても組織として対応を図ることは難しい。
地方自治体の活動は何局であろうと地域の生活を見据え、より豊かな地域生活の実現という究極の目標に向けた一つの方法論として理解されなければならない。そして、幻想に過ぎない地域コミュニティに立脚した空論を組み立てるのではなく、コミュニティの誘発効果を含む、生活の立体化の誘導という領域に活動の真の目標が設定されなければならない。その目標に向けて経済局は産業活性という方法論で、住宅局は住宅・住環境整備という方法論で、民生局は福祉の充実という方法論で取り組むのである。
特にその立ち上げ期に関しては、地域における生活の立体化を誘導するための市民局の活動と、その活動を経済的な視点から受け止める経済局の活動が重要であると考えられる。両局の連携によって生活の高度化が地域産業の高度化を導き、地域産業の高度化が更なる生活の高度化を誘導するといった、生活と地域経済の相乗効果を伴った活性誘導が可能になる。
再開発・区画整理も、産業活性も、住環境整備も、地方自治体が行うあらゆる事業は決してその事業の完遂だけに目標があるのではない。全ては地域生活の充実という究極の目標に向けた一つの方法論にしかすぎないという思想の確立と、地域コミュニティの創出を見通す中での生活に到達できる具体的な施策展開手法の開発が行われなければならない。
TOP 戻る 次へ
2001 Shigeru Hirata All rights reserved.
Managed by CUBE co. ltd.