■地域との実態的な情報交流体制の確立
住民や大規模地権者、産業主体など、地域に拠点を置く多くの主体と広範に連携した地域の経営を地方自治体が展開していくためには、地域からの高い情報収集能力と、立案されたビジョンについて地域の各主体とコンセンサスを得るための恒常的な情報交換機会が行政サイドに備わっていなければならない。しかし、一般的に言って、地方自治体は地域計画立案のためのエリアマーケティングと、住民との広範な情報交流のための活動がいたって不得手である。
地方自治体には何処よりも豊富に地域情報がストックされており、また優秀な人材も多い。従ってエリアマーケティングに関して言えば、その必要性さえ認識されれば短期間の間に高いマーケティング能力を発揮することが出来るようになるだろう。問題は地域の各主体が抱いている課題やニーズの把握と、立案された地域政策に関して、地域の各主体とコンセンサスを図る手法にある。
地方自治体の従来からの地域の声の採取方法は、もっぱら地域組織の代表者の公的な場での発言に頼ってきた。多分に政治的な部分を含んだこのような活動だけで地域の声を聞いたとするおざなりな展開で、真の地域ニーズが把握できるはずがない。まず既存の地域組織自体が真に地域を代表しているのか。また、どの部局の委員会にも顔を出す"地域プロ"と化している地域代表者は本当に地域の声を代弁出来ているのか。
行政サイドがこのような靴の上から足を掻くような展開しか出来ない背景には、行政組織独特の組織の論理がある。T章で述べたように"情報"には属人的な体質が非常に強い。従って、本来、優秀な人材が多い地方自治体が問題を人間的な視点で捉えさえすれば、地域の必然の把握などという課題は決して難しいことでない。しかし、役所という組織は常に組織的な対応に終始して、個人に責任が及ばないようにバリアが張られたようになっている部分がある。この事が役所という"業界"体質をある部分で歪なものにしている。
厚生省の薬害エイズ問題の際にも見られたように、担当者に責任が及ぶのはおかしいという常識が存在しているのである。この常識が壁になって個人が前面に出ることが出来ず、結果として没個性的な組織的対応に終始することになってしまう。そして、そのことが属人的な体質の強い情報の流通を難しいものにしている。
従って、立案された新たな展開方針に対して地域の理解を得るという行為も、情報入手方法と同様におざなりなものとなってしまう。個人対個人というフェイス・トゥ・フェイスの関係がなければ、真の情報の受発信は起こらない。行政組織対住民個人という、常に個人の前に組織という衝立てを立てるやり方がそれを難しいものにしているのである。
アメリカはパーティ文化の国であり、週末には役人や企業人、住民などが集って様々な場でパーティが開かれている。行政側から言えば、それが施策方針に関して地域の各主体とコンセンサスを築くための効果的な一つの手法なのである。
我が国では、役人と民間が直接的に話し合える現状の数少ない機会さえ、新しい国家公務員倫理法の制定によって更に制約を受けようとしている。公務員が民間の利害関係者とどう付き合うべきかを定めたこの法律の影響は、当然、地方自治体職員にも及ぶことになるだろう。しかし、一般社会から隔離された公務員がどのようにして地域の実情を察知して適切な対応策を組み立てることが出来るのか。
地域の課題を常に人間的な視点で捉えなければ対応するための知恵は生まれない。組織の陰に隠れて没個性的な黒子的展開に終始するだけでは、地域と行政マンとの間に真の情報の受発信は起こらない。住民や企業の自助努力の喚起を図り、更に、住民の間に主体性に溢れる興味参加型の地域コミュニティの醸成を促進するためには、まず第一に誘導する行政組織自体がヒューマニティへの回帰を果たさなければならない。
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