3.地域の経営の実践手法


■再生産力のある公共投資事業の開発

 地方の市町村を訪れると、道路や公共施設を始めとする公共建設事業の活発さに驚かされることが多い。自然の中に立派な橋と道路網が整備されており、その中に忽然と公共施設が佇んでいる。岐阜県下の観光資源が豊富なある町の町長と面談した時、町の基幹産業が観光でも、農業でも、林業でもなく、建設業であると聞かされて驚いたことがある。

 箱モノ事業への投資が非難されるようになって久しいが、地方のこのような建築・土木中心の公共投資事業頼みの体制はいつまで続くのだろう。どんなに土建行政と揶揄されようと、国の補正予算は毎年のように建設工事に何兆円も割り当てられている。なぜ地方への公共投資は既存地域産業の活性や、新産業の創出に繋がる再生産力のある事業への投資という方向に向かわないのか。地域の自立性強化につながる、財と情報とサービスの域内循環促進効果の高い事業の開発に向かわないのか。

地方への公共投資は建築・土木などの業界だけが瞬間的に潤う投資先ではなく、ランニング段階で地域の自立に貢献度の高い、再生産力のある分野に向かわなければならない。さもなければ新規産業の芽は育たず、新しい雇用の受け皿も作れない。従がって、産業構造の変革も進まない。何の再生産力も無い箱モノ事業に莫大な建設費をかけて、なおかつ維持費にも毎年税金をかける。莫大な税金をつぎ込んだ箱モノ施設は如何に立派な建物であっても一銭も稼いではくれない。

平成十年九月に都市計画中央審議会基本政策部会より「都市再構築へのシナリオ」という地方分権時代における都市政策の方向性を示す提言が発表された。この提言の中には、ものの整備というイニシャル投資から施設の利用という考え方に観点をシフトさせながら全体として都市機能の向上を図っていこうということを狙いとした、「作る時代」から「使う時代」へという、整備追求型から課題解決型への転換を目指す成熟社会に対応した今後の都市づくりの考え方が示されている。

地方自治体を「地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担うもの」と定義する地方分権一括法が平成十二年の四月から施行された。国からの財源移譲の問題が積み残しになっている点で十分な内容にはまだ至っていないが、この地方自治法の改正によって地方自治体は形の上では国と対等の立場に立つことが出来るようになった。国の画一的な基準による対応から地域毎の特色を活かしたまちづくりへの転換という、分権型社会を目指す第一歩としてその意義は極めて大きく、この一括法をきっかけに、今後、どのインフラ整備が優先されるべきか、地方自治体も地域の必然に基づいて考え、実行するスタンスを確立していかなければならない。


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