■エリアマーケティングノウハウの確立

 地方自治体による今後の"地域の経営"に最も直接的に必要とされる資質はエリアマーケティングのノウハウであると言っても過言ではない。"食えてこそのまちづくり"を推進するのもエリアマーケティングなら、生活の立体化を誘導するために地域コミュニティチャネルの重層化を図るのもエリアマーケティング。今後の自治体活動にはこの「マーケティング」という領域が不可欠の要素として求められるようになる。

 しかし、現状においてマーケティングという領域から最も遠いところに位置する職域の一つが地方自治体でもある。マーケティングコンサルタントとして紹介されたとき、初対面の地方自治体職員から「マーケティングとは一体何ですか?」という質問を受けるときがある。行政機構は総じて縦割り型で、生活を構成しているあらゆる要素が混在する地域に全方位的に対応する事業部署は少ない。その様な組織構造の中で、職員は自らの部署が担当する範囲の業務だけを総じてプロダクトアウト的に遂行している。

地域全体の有り様や、地域生活、農林漁業、商工業などのより望ましい未来をどの方向に見いだしていくか。地域を構成しているそれらの各要素を単体毎に眺めてそれぞれに活性を図ろうとしても、その実現は難しいと言わざるをえない。何と何を組み合わせれば活性化に向けての効果的な推進エネルギーを生み出すことが出来るのか。量や資本力、組織力の問題で既存のマス経済社会の流通体制に乗ることが出来なかった結果として、地域単位の多くの産業や観光資源は時代から置き去りにされてきた。それを縦割り組織の中で相変わらずプロダクトアウト的に、かつ個別に振興を図ろうとしてもその成功は望むべくもない。

 特に、地方の地域の活性には都市部地域との人(観光客)とモノ(物産)と情報の恒久的な流通チャネルの構築が不可欠な要素として求められる。しかし、都市部の事業者の事業スタンスは規模の効率性を前提としているため、既存の細い流通チャネルが個別にどれだけ存在していようと、都市部との安定した需給構造に結び付けていくことは難しい。V章で述べた地域産業にとっての小さいから出来る戦略開発の視点は、当然のことながら地方の自治体にとっても重要な視点なのである。地域毎にある種の必然に基づいて存在している物産、観光、文化、自然などの各種のストックをしたたかに組み合わせた複合的な商品開発と、流通チャネルの開発が図られるようにならなければならない。

 又、地方の計画推進者はマーケットである都市住民の求めるクオリティレベルを理解しようとしていない点も問題として挙げられる。自分たちの常識だけで地域産業の商品開発を進めても、そこに本当に都市住民が求めるものがあるのか。生活環境が異なれば、当然、そこに住む生活者の価値観と嗜好性は大きく異なってくる。
 
都市部の地域整備事業に関しても、住んで、働いて、憩う、地域生活の充足に繋がる機能を個別に地域に敷設しようとする考え方のままでは、何処まで行っても充足することはない。いつまでもプロダクトアウト的なハードの開発に固執するのではなく、既存ストックの有機的な結合によって新たな付加価値を生み出すことが出来るネットワーク型のソフトシステムの開発を目指さなければならない。そういった展開の視点こそがエリアマーケティングの考え方なのである。

 「地域に賑わいが欲しい。」「新たな販路を見つけて商売を活性化させたい。」「余暇生活を充実させたい。」「ボランティア活動に従事したい。」「地域の住環境を向上させて欲しい。」地域には様々なストックや生活とビジネスの都合が存在している。それは生活やビジネスを地域で展開するうえで不足しているものを望む消費ニーズであったり、生活の行動欲求であったりする。

 生活上の欲求から生まれるそうした需要(受け手)と供給(送り手)のニーズの顕在化をそれぞれに図り、それらの新たな需給チャネルを地域の中に敷設するのである。生活やビジネス上の様々な需給バランスの新たな組み合わ手法を開発することによって、需給者相互の自助努力の元に地域生活の全方位性は飛躍的に向上するようになる。地域の生活とビジネスから生まれる様々な要求と供給ニーズの組み合わせによってコミュニティや新たな生活環境整備を推進しようというこのような考え方は、一種の民間活力の誘導による地域生活環境整備推進策でもあるということが出来よう。

 激化の方向を辿る地域間競争を勝ち抜くために地方自治体に求められているものは、いつにこうしたエリアマーケティングの発想なのである。生活と産業活動の活性を相乗効果を伴わせながら誘導することによって、地域は自然に内圧を高めていけるようになる。地方自治体職員は組織の縦割り的な発想から脱却して、共に地域に生きる一人の人間として、エリアマーケティングノウハウを駆使しながら、地域生活の全方位性の充実という新しい行政課題に取り組んでいかなければならない。


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