■三:三:三のまちづくりの現状

 ある地域で、地域の景観や住環境の悪化の防止を目的とする、建設行為に一定の制約が生まれることになるまちづくり協定を結ぼうとした場合、住民の賛否は概ね三:三:三に分かれることになる。賛成の三割、反対の三割、そしてどちらとも言えないという三割である。そしてその意見を表明したグループの属性を更に見ていくと、賛成派は概ね既に建替えなどの何らかの建築上の更新活動を済ませた人たちであり、反対派は今後の更新活動に何らかの可能性を残している人たちである。

 つまり、既に権利を行使した人は規制の賛成派にまわるが、まだ権利を行使していない人は、その可能性を担保したいがために権利の行使に制約を受けることになる協定の施行に反対をするのである。専門家がどんなにその環境的な優位性を説明してもその比率が大きく変わることは殆どない。しかし、土地の私有制と、その土地が用途地域指定によって地価や固定資産税が決定されている我が国の土地所有に関わる現状の中で、個人の権利が制約を受ける協定に安易に全員の合意を期待するほうが問題意識が低すぎると言うことが出来よう。

 地域コミュニティは過酷な自然に対峙して人間の存亡を賭けて地域を形成してきた歴史を持つヨーロッパの必然であって、温暖な気候の中で自然発生的に地域が形成された我が国の必然ではない。それにも関わらず、まちづくりは住民が主役という美しいキャッチフレーズのもとに住民に百パーセントの義務と責任を負わせようとしてはいけない。きれいなバラには刺があるように、それは既設の脆弱なコミュニティを壊す結果にしかつながっていかない。

 コミュニティには住民の権利の侵害が絡む領域と、単に美しい理念だけで連携していける領域がある。行政はその二つの領域を地域コミュニティの振興という名の元に一括りに捉えてはいけない。美しくて楽しい話は住民同士の運営に委ねればよいが、権利関係が輻輳する場合には地方自治体が合意のための環境づくりを行い、尚且つ公正な推進役や審判役を果たさなければならない。

 個人の権利の侵害が絡む領域は、既設のコミュニティを評価して住民同士の調整に委ねようとしても、脆弱なコミュニティはそれに耐えることが出来ずに瞬間的に崩壊してしまう。そして、そこには新たに生まれた隣近所間の確執だけが残ることになる。まちづくり行政は、地域の必然を見極め、問題解決のためのしたたかなコーディネートによって権利関係の調整を終えた後に、地域コミュニケーション推進の主体を住民に戻すようにしなければならない。


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