■生活枠の拡大支援

 ベッドタウンとは言いえて妙であり、ニュータウンの昼間は人影も少なく、そこには生活の風景がない。一方で、都市部は経済効率によって構成されており、無目的な来訪者には佇む場所もない。このように、従来の都市計画は地域をマクロに見た地域別機能配置論だった。しかし、社会が一定の成熟段階に到達した現在、人は地域に経済効率よりも生活の快適性を求めるようになってきている。

我が国の大都市部は既に郊外化の流れから都心回帰の流れに変わってきており、生活の全方位性を受け止めることが出来る機能が地域に望まれるようになってきている。都心には居住性が、そして地方には産業が望まれるようになってきているのである。その様な流れの中で今後打撃を受ける可能性の高い地域が、ニュータウンに代表される都市部近郊の住居特化地域であろう。都市部のような働き場も、既成市街地のような賑わいのある生活支援機能も共にない。その様な地域環境の中で生活枠の拡大を期待することはそもそも難しい。

ニュータウン開発事業が生活の全方位的な充足を購入者に約束するためには、柔軟な就労機会を保証できる産業立地戦略や、多様な余暇生活のサポート機能を自立して運営させることが出来る仕組みが開発事業全体の中に盛り込まれていなければならない。住んで、働いて、憩う。生活を域内で完結させることが出来る機能を自立して展開できる構造の元に、開発区域の中に敷設するのである。しかし、狭義の不動産事業の枠に閉じこもって、地価の差益にしか事業性を認めることが出来ない多くのデベロッパーにはこのことがいたって難しい。

 イギリスでは家から五分も歩けば必ずパブがある。そこには午前中からでもジョッキ片手に仲間たちが語らう姿がある。イタリアでは家から五分も歩けばリストランテや、トラットリア、ピッツェリア、バールがある。朝はカプチーノと甘い菓子パン。昼はパンニーニ。夜は一旦帰宅してから、九時頃から家族や友人たちがレストランに集う。そして食事とワインの社交の場は連日深夜まで賑わう。

 しかし、この国の住宅地では、家から何分歩いてもそこにはやはり住宅しかない。他にあるものといえば人気のない公園だけ。そして、家々のドアはどの家も固く閉ざされている。居酒屋やバーは大半が都心寄りにあり、そこには地域に根差した生活はなく、企業文化のコミュニティしか存在していない。この国の中では地域生活を中心にコミュニティが育まれる環境は何処にも見受けることが出来ない。

しかし、これからの地域の住みよさの指標は、域内での生活完結力の高さにかかるようになる。住むだけのまち、働くだけのまちには地域として何の魅力もない。多様性を含んだ生活にトータルに応えてくれる地域こそが魅力的なのであり、そのための、住宅から余暇活動、就労、環境、福祉に亘る、生活の全方位性を充足させてくれる、ハードからソフトに至る生活環境整備事業の推進が地域に求められなければならない。
 

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