2.企てを業に出来る企業体質への転換
■知恵に対する評価とその育成
「業を企てる」と書いて企業と読む。そして、"企て"とは世の中に対する仕掛け、謀を指す。つまり、企業とは常に世の中に対して謀を図り続けることによって存続が可能になる組織体なのである。しかし、一般的に言って、他者に対して企てを行うのは悪人の所作であり、善人にその必然は薄い。したがって、「企て」という言葉には常にダーティーなイメージがつきまとっている。一般に言われている企業性悪説の根拠の一つもここにあると思われるが、本来の企業活動は人間に対する深い洞察に基づく善意の企てで構成されていなければならない。
しかし、企業社会は構成員である社員の知恵を評価しようとしてはいない。では、世の中を洞察し、知恵を発揮する術を持たない人間の集団によって構成されている企業は、いかにして世の中に対して企てを図ることができるのか。世の中を実感した上での生活に向かう奉仕の企ては本質に近づくが、数値目標しか追えない近視眼的な企ては自己矛盾の世界を彷徨うことにしかならない。
自らが所属する組織体に求められるべき社会性は何か。そこから導きだされる企業活動の方向性は何か。人間の有情を知るということを企業活動の前提にしないかぎり、企てを図るという行為は決して正しい方向には向かわない。そして、企てが正しく図り続けられないかぎり、業を企てる組織体の存続は危ういものにしかならない。
今後の海図無き経済社会に船を漕ぎだす企業にとって人間の知恵は欠くべからざる経営資源であり、船の進むべき航路を示す羅針盤である。社会の実態と自らの組織の存立理由を把握し、両者の因果関係を理解することによって社会に対して企てを図るための新たな知恵は導きだされる。人間に依拠しない経済システムの下で、社員の知恵や人間性に評価を与えることなく運営を続けてきた企業社会。このような無機質な経営体質のままでは企業はいつまで経っても社会に対して善意の企てを図ることは叶わず、栄枯盛衰の必然の波に飲み込まれて、二十一世紀を生き残っていくことはできない。
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