■感性のマーケティングの奨め

現在の社会は成熟社会と呼ばれ、十人一色の時代から十人十色という価値観の多様化の時代に入っている。マーケティング業界においてもマクロな定量分析という作業は殆ど意味を成さなくなっている。最大公約数が実像を結ばなくなってしまったのである。

高度経済成長期までのような、物理的にモノが足りない時代における事業戦略は明快だった。しかし、このモノ余りの時代に、個化していく流れの中で希薄化する時代の空気をどのようにして実感するか。それには、マスから個化するマーケットを見通そうとする無機質な手法ではなく、個人の実感を基点として共通した属性のグループである群を理解し、更に群の集積として全体(マス)を把握しようとする、個人の感性をベースにした分析手法が有効であろう。

そもそも、一人の人間が実感をもって他人の感性を推察できるのは、自分の属性を中心として限られた範囲でしかない。だから、自分とは異なる属性でありながら、親しいために感性の在処が理解できている親や知人などの嗜好性をも拝借しながら、実感を持てる範囲の拡大を図るのである。

例えば、二十代の男性に四十代の女性の感性を実感しろと言っても無理な話だろう。人によって異なるが、概ね上下十歳程度が実感できる限界であると思われる。そうすると、十代から七十代までを十歳ごとに七分割すると、人が感知できる範囲は全体の七分の二ということになる。

 これを数量的に説明する次のようになる。日本の人口を一億として、七分割した世代のうちの二世代分を理解できるとすると、その数は約二千八百万人。理解の範囲を男女別とすると、その半分で一千四百万人。つまり、自分自身の感性によって実感できるマーケティングの範囲の限界は、人口一億のうちの一千四百万人、全人口の十四%ということになる。この十四%という数字を個人の限界数値として、異なる属性でありながら嗜好性を把握できている他人の感性も動員することによって更に何処まで実感の範囲を広げていけるか、理解の幅を広げていけるかがマーケッターとしての一つの努力目標なのである。

マスを単に無機質な数字として眺めるのではなく、豊かな感性を育み、人間に対する慈愛に満ちた洞察力を養うことによって、個から群、そして群から社会全体を見通すことが、社会を理解して善意の企てを図る人間に必要な資質なのである。



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