3.決して長くないサラリーマン人生


■二十代の"あがき"の時代をどう生きるか

 企業人としての一生を通じての可能性は就職してからわずか三年で決まる。入社から数年間の雇用期間は企業にとっては個人への投資期間でしかないが、この期間は実は新入社員にとっても一生を賭けた自分への投資期間なのだ。この期間をどのように過ごすかによって社会人としての一生は決まってしまう。

 では、新入社員がこの時期に自分の将来に対して投資するものとは何か。一言でいえば、それは"時間"である。一日八時間。会社で学ぶ直接的な企業活動の経験を、退社後もう八時間かけて、自分が知り得る範囲の社会と関連づけながら実感をもって納得させる。企業活動の意味と意義を、自分が経験してきた人生に当てはめて実感に置換える。しかし、自分一人ではまだすべてを理解できないので、頼るべき社会人の先輩が必要になる。

このように、社会人としての助走期には社会を知ろうとする"あがき"が重要なのであり、それに掛ける時間的密度の濃さによって、社会と会社と自分自身の因果関係に気づく時期は決まる。そして、 "あがく"ためのエネルギー源は個人の夢に求めることができる。仕事という方法論を通して、自分は社会に何を働きかけたいのか。夢を具体のものにしたいという熱い思いが社会と格闘する"あがき"のエネルギーを生みだすのだ。

 新入社員の時点ですでに目から鼻に抜けるような機敏さを発揮する人間がいる。一見頼もしそうに見えるが、そのようなタイプの人間は概ね三十代になるころには臭いだけの社会人にしかならない。自分の人生を賭けてのあがきが出来ない人間は、経験を知恵に変えて自らの中に蓄積する体質を築けない。要領が悪く、あちこちに頭を打ちながらも真面目にあがける人間が、着実に一段ずつ個人の資質を高めていくことが出来る。

 いずれにせよこの時期を平々凡々と過ごしてしまった人間には、偶発的にせよ、その後に画期的な未来が訪れることはない。企業活動の意味や社会との関係を実感できなければ対応するための知恵を生みだすことも出来ず、いつまでたっても知識の受け渡しだけが能力の全てという程度の社会人にしかならない。



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