第3節.地域社会の実態化に向けて


1.新たな地域コミュニティの醸成


■我が国の"地域"が持つ基本的性質

 本来は経済とは無関係な生活の構成要素さえも経済発展という目標のために取込んだ我が国の経済一元化体制は、高度経済成長の限界到達とともにタガが緩みだし、今ではそれに変わる新たな社会の枠組みが模索されるようになりだしている。生活の多様性を担保する基本は生活が依拠する場の多様さの確保にあり、そのために目指すべき帰着点が地域と目され、そこでのコミュニティの振興が重要であると考えられる。しかし、地域実態化の為のコミュニティの促進は我が国においては難しい課題を抱えている。

 地域という言葉の概念は欧米とアジアでは大きく異なっている。人間が集住することによって生まれる地域は、欧米においては人為的に形成されるものであるが、アジアにおいては自然発生的に生まれ、定着するものとして捉えられている。

 ヨーロッパにおいては自然は人間の存在を脅かす厳しいものであり、都市国家間の抗争の歴史とも相まって、城壁都市に見られるように、人間が集住する地域は自然や敵対勢力の対峙、征服を目的として形成されてきた。そして、協働、コミュニティという概念は、そのような環境の中で人々が生き抜いていくために必要なものだった。自然や地域を征服しようとする欧米の"都市のプランニング"という思想はこのような歴史の中で生まれており、欧米の人為的な都市政策の考え方は歴史に基づく必然なのである。

 一方、アジアの気候は温暖で湿潤なものであり、それは、決して人間の存在を脅かすようなものではない。アジアにおいては自然は人間に恵みを与えてくれるありがたい存在であり、人間が集住する地域はいわば自然発生的に形成された。そのような環境の下に人間と自然との共生という思想は育まれてきた。したがって、自然や地域を征服するという発想はアジアの人間にとっては不遜な考えであり、地域に対しては常に一定の畏敬の念が払われてきた。

 このような、自然発生的に生まれた地域におけるコミュニティは、一般的には希薄な存在だった。欧米のように人間が協働して地域を征服してきた歴史を持たない我が国においては地域というものはいたって漠としたものであり、したがってそこには強固なコミュニティが存在する必要もなく、地域に人為的な働きかけをしようとする発想もない。欧米の地域コミュニティの必然は我が国にとっては未だに幻想にしか過ぎないと言うことができよう。


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