■たった一人の生活文化革命の奨め
コミュニティが地域に根付く必然がなかったこのような我が国の地域社会の現状があるにも関わらず、地域コミュニティの存在を前提として語られる地域社会振興論には何のリアリティも感じることはできない。また、役所の地域コミュニティ支援活動も、多分に社会的弱者救済に主眼を置いた、初歩的な欠乏充足欲求段階の活動が中心になっている。内から見ても外から見ても、我が国において地域コミュニティが振興される環境は整っていないということができる。
しかし、成熟社会を迎える中で、今後、地域が住み続けたいまちとしての魅力を確保するためには、"普通の人の"地域生活を豊かにするための、生活の多様性に対する全方位的な対応が図られるようにならなければならない。そして、そのためには地域への重層的なコミュニティ・チャネルの敷設が図られなければならない。地域コミュニティの創出による生活ネットワークの強化。地域文化創出による文化ネットワークの深化。地域生活をサポートする、地域を単位とするビジネス・ネットワークの拡大。地域生活者の最大公約数である一般的生活者の生活を支援できるコミュニティの重層的配備策が生活枠の拡大を可能にし、住んでみたい、住み続けたい地域像を具体のものにしてくれる。
したがって、魅力的な地域の創出を図るためには、既に人間としての主体的な生き方に目覚めた女性を中心に、自己実現欲求に沿って自らの生活枠の拡大を可能にするための活動を始めなければならない。たった一人で始めるその生活文化革命にはすぐに同志が集い、地域の実態的なコミュニティとして成長していくことになるだろう。なぜならば、地域社会は人間的なるものを求める胎動期にあり、個人の生活の豊かさを求めての活動はすぐに高い情報発信力を伴って周辺生活者に伝播するからである。そして、同志的結合の促進による地域コミュニティの実態化は、地方自治体や生活産業化した地域産業が注目するところとなる。
「近隣住民と一緒になって趣味のサークルがしたい」「地域でボランティア活動に従事したい」「独身時代に会社勤めで得たキャリアを活かしてパート勤めをしたい」「健康管理と自然の散策をかねたウオーキングの同志を募りたい」
地域コミュニティは理屈でも生活者の義務でもない。それは地域における生活を充実させたいという貴方の素直な欲求の発露から始まる。したがって、地域コミュニティが存在しないことを国民の民度の低さのように語ったり、また、その創出を目的として地域活動のありようが語られることは間違っている。人はコミュニティを目的として行動を起こすのではない。自らの地域生活を充実させたいがゆえに自己実現に繋がる行動を欲求に基づいて起こすのであって、コミュニティはその活動の結果として必然的に生まれるものにしか過ぎない。
地域コミュニティが幻想に過ぎない我が国において、なおかつ地域の実態化を推進するためのコミュニティの醸成を期待するためには、生活者の積極的な参加意欲を喚起できる興味参加型のコミュニティからその振興を始めなければならない。
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