生活の外部経済化

"金"を中心とする経済偏重社会。その中で失墜する家庭生活の地位。この社会常識の変化が夫である男性に続いて妻である女性をも企業社会に引き込み、その結果として家庭生活が外部経済化していくのにさほど多くの時間は要しなかった。効率的な共稼ぎ体制の維持のために、生活の外部経済化が不可欠だったのだ。

夫も妻も共に家庭から会社に軸足を移すことによって、所得倍増の時代をダブルインカムで一層所得を増やし、最終的には所得を増やすこと自体が生活の目的となっていった。いわゆる、DINKS(ダブルインカム・ノーキッズ)の流行だった。そして、その体制を維持するために家事労働の削減が不可欠の条件として要求された。掃除、洗濯、食事などの妻の社会進出を妨げる家事労働は単なる非効率な行為、時間の無駄として可能な限り外部経済化が図られ、家庭生活の中から切り捨てられていった。

 また、こうした現象は企業社会の大いに企図するところでもあった。今までは主婦の作業領域として企業活動の対象とはなりにくかった多くの家庭生活の領域が、突然ビッグ・マーケットとして産業界の前に出現したのである。これに対し、重厚長大産業をはじめとして、本来、生活領域とは無縁であった多くの産業界も、先を争って生活産業に参入して生活商品の開発を競うようになった。

また、このような環境変化に加えて、国の制度面からもこの流れを支援する動きが拡大していった。男女雇用機会均等法が施行されるようになり、それに伴い女性の為の総合職制度が生まれ、更には男女を問わない育児休暇制度の設定など、女性の社会進出をサポートする環境は目に見えて充実していった。そして、これらの複合要因によって、社会組織の一番の基本を為す家族の生活の場は益々企業社会の草刈り場と化していった。

様々な家庭用電化製品の購入。手入れを必要としない住宅の商品化・過剰設備化。食卓に並ぶ調理済み冷凍商品。果ては外食の日常化から子供の育児・教育に至るまで、あらゆる家事労働は単なる非効率な行為として金で贖われる対象でしかなくなってしまった。


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