■参入すべき製品開発領域の検討手法

 地域の製造業が自社と地域の特性を踏まえたうえで参入領域を決定していくためには、主に製造上の都合と、流通上の都合、及び社会のトレンドの三つの項目について検討を行う必要がある。これら三つの特性がクロスするところに参入すべき製品開発領域が存在している。

製造上の都合に関わる部分としては、まず既存製造技術の分解と、その個別化された技術の分析という作業が必要になる。従来からの自社の製造技術の特性とは何だったのか。それを一体化されたものとして眺めるのではなく、個別の技術に照準を合わせ、それらの新たな展開の方向性と、展開が図られた個別の技術同士の新たな組み合わせ方を検討するのである。

 しかし、何十年も特定の製品を製造するために展開されてきた技術を解体して個別に再評価することはなかなか難しい。どうしても常識が邪魔をしてしまう。したがって、この一連の作業は外部の人間の目を借りながら行うほうが円滑に進むケースが多いと思われる。

次いで、連携する他企業の能力分野の把握という作業が必要になる。幅広い分野に対応出来る能力はなくとも、特定の分野に特化したノウハウや技術力を発揮できる中小企業は少なくない。自社の技術を解体・分析したように、連携すべき各企業の特徴と能力の在り処を充分に把握して、無理の無い開発の方向性を探らなければならない。

更に、地域ストックの原材料化を検討するという視点も望まれる。地域には様々なストックが存在している。それは地域に特徴的な自然資源から既存地場産業の一次加工商品まで多岐に亘る。そうした既存の地域資源を活用することは、材料調達の容易さといったこと以外に地域全体の活性化にも貢献するものなので、地方自治体の協力などの側面支援体制の確保にも繋がることになる。

流通上の都合に関しては、地域の既存流通チャネルや各種ストックの特性分析を行う必要がある。開発商品の普及には特にこの流通問題が重要になる。しかし、製造業に携わる人間は一般的にこの領域が不得手だし、地域産業の活性を支援する立場にある地方自治体にとっても民々の領域として腰が引ける部分である。提携すべき既存の流通チャネルや地域に存在するの各種ストックの特性分析は、新たな流通販路発掘にとって必要不可欠な作業である。

また、地域の範囲を越えた流通量を期待しない限り、その商品が流通する"地域"の特性がマーケットの特性として商品開発の重要なカギを握ることになる。地域生活の実態、地域の嗜好性・気質、地域の変容の流れをどのように実感として把握するかが開発方針に大きな影響を与える。そして、その際に注意を払うべ領域が地方自治体のまちづくりや産業活性化に関する誘導方針である。

 まちづくりの時代である。全国の自治体ではスポーツから音楽、福祉、健康と様々な独自のまちづくり方針を掲げて地域を誘導しようとする動きが高まっている。自社の開発方針策定に際してこうした地方自治体の活動方針を視野に入れることは、生活産業化を目指す地場製造業にとって重要なことであり、それによって地方自治体の活動との相乗効果も期待できる可能性が生まれる。

 中小の製造業が新たな開発領域を模索する場合には、このように地域固有の生活やストック、流通の現状を把握したうえで事業の組み立てを図らなければならない。世の流れに踊らされて足下を見据えない取り組み姿勢では、流行社会の波に漂うだけの存在となり、事業の成否は自助努力の範疇から逸脱するものとなってしまう。但し、社会のトレンドも一方の検討項目であることは確かで、現在の流行から前述の自社特性と地域の都合に合致する部分を抽出して、開発方針策定のための一検討項目として加える必要はある。 

 "ニュービジネス"とは全く新しいビジネスの創出だけを指しているわけではない。むしろ実際は当たり前のこと同士の新しい組み合わせ方の開発によって生まれているケースが大半である。新たなビジネスを指向する際には、何十年も見慣れた常識の世界を如何にニュートラルな視点で解体・分析して、全く新たな発想の下に地域に必然性の高い新しい組み合わせを開発するかということが大切なのである。


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