3.小さいからこそ出来る戦略とは
■オーダーメイド生産体制への転換
大手製造業と比較した場合の小規模製造業の一つの欠点は、その生産規模の小ささにある。このことが高度経済成長期の一元的経済ネットワーク・チャネルから落ちこぼれた原因でもあった。しかし、社会が規模の時代を終えようとしている現在、地域に密着して展開を図ろうとする地場製造業にとって、この量産性の低さは逆に長所として展開できる可能性が生まれている。
生産力の低さを逆手にとって顧客対応型の受注生産システムを作るのである。受注生産というシステムは、生産と販売現場の距離が遠い大手企業にとっては効率が悪すぎて手を出しにくい領域である。組織の小ささを活かす一つの戦略は、資本と組織の論理に立脚する大手が手を出すメリットを感じない非効率な領域に、フットワークを活かして新たなシステムを作り上げるところにある。地域生活者とのコミュニケーション・チャネルの形成によって築き上げた、地域を舞台とする双方向情報受発信システムを活かして、望まれるモノを、望まれるときに、望まれる人に提供できる体制を作り上げるのである。
そして、この受注生産という考え方を更に発展させると、それはオーダーメイド型生産体制ということになる。生活者との対面を前提として要望を取り入れながら個別に商品を生産するという体制は、効率的量産性を追求する大手企業には全くといってよいほど馴染まない。それに引き換え、地場製造業は地域で生活者と一体となって存在している。つまり顧客は工場の隣にいるのである。この生活者の個別ニーズに対応する体制は、生活者に対してその地域に住む限りない付加価値を保障する。それによって地域居住を積極的に支える地場産業、という構図が生まれることになる。
オーダーメイド型生産・供給が適する領域としては、より高い運動成果を獲得するために身体の個別特性への対応が求められるスポーツ系商品や、メガネや靴などの体に付ける健康関連商品、更には、ファッション系衣類などの様々な領域が考えられる。そして、その中でも、地域社会の中でオーダーメイド・システムを展開するのに適した製品領域の代表的な例として、高齢化社会の進展に合わせて近年急速に注目を集めつつある福祉機器の領域を挙げることができる。
福祉機器の開発は現在幾つかの地方自治体で地場産業向き商品として取り上げられているが、そこにオーダーメイドという視点を付加すればその意義は更に強まる。本来、福祉機器は利用者の体型や障害の内容と程度によって製品化が個別に調整されなければならない。利用者の個別の都合の都合に応えるために、対面式のオーダーメイド対応が望まれるのである。地域の利用者と地域内で相対し、地域内で製造を行うことに非常に必然性の高い商品であるということができる。
また、福祉機器の流通には、自治体の給付事業を始めとして公的機関が深く関与している。このことも地域の製造業が福祉機器業界へ参入することを推進すべき大きな理由となる。新商品開発の誘導に際しては販路の確保が必須条件であり、地方自治体が流通販路を提供してくれることは、地域の製造業が福祉機器業界へ参入できる可能性を極度に高める効果を持つ。職住一体構造の既成市街地のまちづくりという住宅行政の領域を舞台に、福祉機器の流通を担当する福祉行政と地域産業の活性を推進する経済行政が連携することによって、地場産業の福祉機器業界への参入促進は行政の抱える三つの地域課題の同時解決を可能にする。
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